大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和44年(行ウ)69号 判決

京都市東山区山科安朱馬場東町四五番号の二

原告

松岡夘三郎

大阪市東区大手前之町一番地

被告

大阪国税局長

吉瀬維哉

右指定代理人

伴喬之助

松浦義雄

橋間他家男

和泉勉

右当事者間の国税徹収令状一部取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

東山税務署長が昭和四〇年七月三〇日になした、原告の昭和三五年分所得税の再更正決定および加算税賦課決定はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告)

主文と同旨の判決。

第二、主張

(原告)

請求原因

一、東山税務署長が昭和四〇年七月三〇日原告に対してなした昭和三五年分所得税の再更正決定及び加算税賦課決定(以下本件各処分という)には左記二、三の違法がある。

二(一)  原告は昭和三五年八月一〇日訴外日本セメント株式会社に対し、原告所有の高槻市鬼ケ谷一一二八番地の八(二町一反六畝一〇歩)、及び同一一二八番地の一二(五反八畝一一歩)の二筆の山林を代金一、七〇〇万円で売渡し、同日同会社より内金として金八五〇万円を受取つた。そして、残代金八五〇万円は同月三〇日に支払われる約束であつたが、同会社は右期日までに支払をなさず、ようやく昭和四〇年一月一八日になつて現金三五〇万円と額面一〇〇万円の約束手形五通を原告に手渡した。しかしながら、右約束手形中一通は後日不渡りになつたので、結局原告が右売買により現実に日本セメント株式会社から受取つた金員は合計金一、六〇〇万円であつた。

(二)〈1〉  ところで、右山林二筆は、昭和三五年七月二九日原告が仲介人南良太郎を通じて高槻市新京市三番地訴外西はなより、「所有権移転登記料は原告が支払う。」との約定のもとに買受けたもので、原告は右西に対し代金として金八三〇万七、八〇八円、右南に対し手数料として金五一万円、前記登記料八万三、〇七〇円の合計金八九〇万〇、八七八円を支出した。

〈2〉  また、山林を売却するためには、山林に道路及び架橋を設置することが必要であつたため、原告は右工事を施工し、工事費として金三五八万九、〇四〇円を支出した。

〈3〉  日本セメント株式会社は、前記の通り原告との間で昭和三五年八月三〇日までに残代金八五〇万円を支払う旨を約しながら、昭和四〇年一月一八日まで五二カ月間右支払を遅滞したので、原告は右遅滞により、右金八五〇万円につき年五分の割合で計算した合計金二二一万円の損害を豪つた。

〈4〉  右〈1〉〈2〉〈3〉の合計金一、四六九万九、九一八円は前記原告、日本セメント株式会社間の山林譲渡の必要経費である。

(三)  従つて、原告の本件山林譲渡による所得は(一)の金額金一、六〇〇万円から(二)の金額金一、四六九万九、九一八円を差引いた金一三〇万〇、〇八二円にすぎないから、これと異なる本件再更正処分は違反である。

三、被告は、加算税は無申告の罰金であるというが、原告は昭和三六年三月二〇日、園部税務署長に対し口頭で、前記原告、西はな間の売買、及び原告と日本セメント株式会社間の売買につき申告済であるから加算税を賦課されるいわれはない。

本案前の抗弁に対する答弁

いずれも争う。

(被告)

本案前の抗弁

一、本件各処分は東山税務署長によつてなされたもので、被告は本件処分の処分庁ではないから、被告には本件訴の被告適格がない。

二、原告に対する課税処分およびこれに対する不服申立などの経過は左記のとおりであり、本件各処分は昭和四〇年七月三〇日になされているから、本件訴は出訴期間経過後に提起された不適法なものである。

(一) 昭和三九年九月三〇日園部税務署長がなした原告の昭和三五年分所得税の決定および加算税の賦課決定

(内容) 総所得金額 四、六九四、一〇〇円

税金 一、五五九、三四〇円

無申告加算税 三八九、七五〇円

納期限 昭和三九年一〇月三一日

(二) 昭和四〇年七月三〇日東山税務署長がなした、原告の昭和三五年分所得税の再更正処分および加算税の賦課決定(本件各処分)

(内容) 総所得金額 七、二〇〇、〇〇〇円

税額 二、七六五、〇〇〇円

(増差額 一、二〇五、六六〇円)

無申告加算税 六九一、〇〇〇円

(増差額 三〇一、二五〇円)

納期限 昭和四〇年八月三日

(三) 昭和四〇年八月一七日原告は(二)の再更正に対し異議の申立。

(四) 昭和四〇年一一月一八日(三)の異議申立が被告に対してみなす審査請求となる。

(五) 昭和四一年二月一六日原告は(四)のみなす審査請求と別に被告に対し審査請求をなす。

(六) 昭和四一年七月二九日、被告は(四)のみなす審査請求に対し棄却、(五)の審査請求に対し却下の各裁決をなす。

三、よつて本件訴を却下するよう求める。

第三、証拠関係

(被告)

乙第一、二号証提出。

理由

処分取消しの訴えは、処分をなした行政庁を被告として提起しなければならないところ(行政事件訴訟法第一一条第一項)原告は本件各処分の処分庁である東山税務署長を被告とせず大阪国税局長を被告として本件各処分の取消しを求めているから、本訴は不適法として却下さるべきである。

もつとも、取消訴訟において、原告が故意又は重大な過失によらないで被告とすべき者を誤つたときは、裁判所は原告の申立により、被告の変更を許すことができ(同法一五条第一項)、この場合には出訴期間の遵守については新たな被告に対する訴えは、最初に訴えを提起した時に提起されたものとみなされるのであるが(同条三項)、本件においては、仮りに被告を東山税務署長に変更することを許可したとしても出訴期間徒過により本訴が不適法であることに変りはない。

すなわち、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一、二号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和四〇年八月一七日、本件各処分について東山税務署長に対し異議申立をなし、右申立は、審査請求とみなされ、昭和四一年七月二九日審査請求棄却決定がなされ、右決定は原告にその頃告知されたことが認められる。

そして本件記録によれば、本件訴は同告知の日より三カ月間の出訴期間(行政事件訴訟法第一四条第一項)を経過した後である昭和四四年七月一七日に提起されたことが明らかであるから、本件訴は訴訟要件を欠く不適法なものとして却下さるべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上三郎 裁判官 小杉丈夫 裁判官藤井俊彦は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 井上三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例